ITをめぐるディレクション業務は、近年どんどん複雑化、単純なWebサイト構築の「制作進行管理」ではとどまらなくなっている。 多様化するWebディレクション業務について、役割ポジションと実践ノウハウを解説しましょう。
情報の区分けということで、「埋没情報」と「新規情報」について考えてみましょう。
「埋没情報」というのは、クライアント側(企業や自社内などサイト構築の主体者)に眠っている情報です。
前回述べたように、相手側(自社内のサイトを含む)と「あるべきWebサイト」の情報を考えて、不足している情報が探してみたところ、相手側に過去のカタログやパンフレットや各種データに現存していることがあります。
たとえば、各部署に照合したり、古いデータを検索したり、過去に発刊した媒体などを探すと、求めている情報に出くわすということは少なくありません。これが埋没情報です。
相手先が企業の場合は、企業活動を長年続けているわけですから、そこにはたくさんの情報が「埋没」しています。相手先に「こういった情報ないでしょうか」「こういうソースがあれば助かるのですが」などと、埋没している情報が無いか確認します。
それは単なるテキストデータに限ったことだけではありません。写真であったり、図面であったり、情報ネタ元でも構いません。相手の埋没している情報は活用しやすく、サイト情報に用いやすいと言えます。
このとき、「過去の情報は古いものだから意味はない」と早合点するのは短絡的です。古い情報であっても、新しい手法を加味して焼き直しをしてブラッシュアップしていけば、新しい体裁に模様替えすることができます。「別角度からの焼き直しは、マンネリを打開する」という言葉は、サイトディレクションにおいても有用な言葉でしょう。
「新規要素」について述べます。これには2つありまして、
とわけることができます。
技術的な新規要素というのは、それまでWebサイトになかったインターネット上の技術要件です。たとえばSNSであったり、動画であったり、プログラムであったり、マルチデバイス対応であったり。いずれにしても、新規要素をプラスする場合には、豊富な知識と的確な見解がもとめられるので、Webディレクターとしては腕の見せ所と言えるでしょう。
内容的に新規要素が追加されるケースは、新規ブランドコンテンツ(スペシャルコンテンツ)であったり、キャンペーンページであったり、あるいは新製品情報やインタビューコンテンツなどになるでしょう。
これらを作成するとき、多くの場合、広告代理店やコンテンツプランナーが介入することが多く、それをWebサイトに掲載する段で意見を求められるということは多いはずです。
また、企業が新規コンテンツを作るのは全社的(部門をまたがること)であり、単独でディレクターのみに依頼するということはなかなかないと思います。
よって、サイトのアドバイザーとして「どのように見せることができるか」を提案して、実際に組み上げていく形になると思います。
このときの留意点としては、ディレクターとして早めに企画会議などに参加すること。
事前にクライアントや代理店から打診があるはずです。その段階で、Web化する場合の条件を確認しておきます。たとえば……、
などを事前確認しながら、新規要素を追加するディレクションを行いましょう。
新規要素について、興味深い話をあるディレクターから聞いたので紹介します。ディレクターはAさんと言います。
Aさんは、B社サイトのWebディレクションを担当しています。順調にいったのですが、お客さんから不満を言われたことが多くなったそうです。
クライアント曰く、「競合社は、どんどん新規技術案件やコンテンツ提案や写真撮影取材など積極的に行ってくれるが、Aさんはこちらが指示をしないと動いてくれない、消極的ではないか」と。
Aさんは、「なるほど」と反省して、プランナーも兼ねて積極的なディレクションを心掛けるようになり、B社からの評判も再度あがるようになりました。
そのやり方で好評を得たので、受け持ちのC社に同じディレクションをしてみました。しばらくするとC社から連絡がありました。
「Aさんが最近やりすぎている。うちは、確実なサイト運営をしてもらいたいのだから、そんなにどんどん提案してもらっても、対処に困る」
あいにくC社では、従来のAさんのやり方のほうがよかったようです。Aさんはしばらく悩んで、「臨機応変に対応するしかない」と思い至ったようです。
こういうことはよくある話で、私も経験したことあります。
ディレクターとしては、「自分のスタイルを持つ」ことは重要ですが、自社運営サイトであれ、企業サイトであれ、一人で完結するわけではありませんので、やはり相手(先方窓口担当者)との距離感や目的意識を共有化しながらディレクションする必要があるわけですね。
さて、情報整理について、このように長く解説したのには理由があります、
Webサイトの本質は「サーバにおかれたデータ情報集積体」です。
その情報にはなんらかの目的がなければなりません。たとえば、企業や個人がその情報掲載によって、利益(ベネフィット)を得られなければならないなど。
よって掲載する情報については、十分に吟味検討してから掲載するように努めるべきです。Web作成するからといって、単純に「いまそこにある情報を新しいデザインにして掲載する」というやり方では、サイトリニューアルとしては失敗でしょう。
そういう意味でも、「掲載する情報」を3つにディレクションしながら構築する必要があるわけです。
また、ディレクターの業務について「サイト構築の現場監督」と認識されている方が多いようなのですが、それは決してすべてではないと思います。
本来の人員・品質・日程管理のディレクション業務のほかに、「ディレクションという業務は、出版で言うところの編集者、つまりコンテンツプランナーのような仕事も携わる」こともあるし、「SEのように技術要件の提案や、各種データを行う」こともあるわけです。
つまり、ディレクションの「現場統轄」という役割をもちながら、それ以上に「サイト構築の情報整理者」的な役割も含んでいることを忘れてはなりません。
ディレクターがさまざまな役割を担うと思ったほうがよく、とくに「情報整理」「人員整理」「予定整理」など多様な業務をつかさどる職務と考えてください。
つづく
ディレクションにおける「情報区分け」は最重要ポイント。単なる現場統轄ではなく、情報の統括者としての役割を。
IT企業の取締役として十数年、金融機関サイトをはじめ一部上場企業サイトを多数構築。その他、eラーニングシステム・コンテンツ構築、各種業務系システム構築なども手掛ける。豊かなWebディレクションの経験を生かした「ディレクションとは何か」を本サイトで連載中。